結核というと、ドバッと血を吐く昔の病気というイメージをもつ方が多いと思いますが、現在でも毎日患者さんが発生し、多くの人が亡くなる重大な感染症の一つです。
徐々に発生数は減っていますが、先進国の中では日本はまだまだ結核の罹患率が高い方。
そのため、医療・介護従事者なら結核の患者さんと出会ったことがある方も多いはず。
今回は、結核を発症した人と接触があったことがわかった時に、どのような検査等が必要になるのかについてお伝えしたいと思います。
結核の感染力
結核は病状や部位によって、感染力が異なります。大きく分けて3つのパターンがあるので、それについて説明します。
肺結核(高感染性)
最も周囲に影響力が高いタイプの結核がこちら。
喀痰(自力で排出した痰)を、乾燥・熱固定して、好酸性染色をほどこし、顕微鏡下で抗酸菌の存在を探す方法で菌が発見されると、排菌量が高いと判断され、結核の専門病棟がある医療機関で入院して治療しなければならなくなります。
この検査を塗抹検査といい、1~2日で結果が出る検査です。
痰以外の検査としては、胸のレントゲンやCTでも病変が見つかります。
高感染性の肺結核と診断された場合、感染症法に基づいて「勧告入院」の対象となります。勧告入院が課される状態だった場合は、管轄の自治体に申請することで、入院治療中すべての医療費を公費で賄うことができます。
(世帯の総所得税額が147万円を超える場合は、月額2万円を上限として一部自己負担がかかります)
比較的若年であれば、咳や痰などの症状が長く続くことがほとんどですが、高齢者の場合は分かりやすく症状がでない方も多くいます。
また希なケースではありますが、痰の塗抹検査では菌が見つからなかったものの
- レントゲンで肺に空洞状の影が見つかり、咳などの呼吸器症状がある場合
- 胃液など他の検査から菌が見つかり、感染力が高いと周囲への影響が大きい場合
などは高感染性とみなされ、勧告入院の対象となることもあります。
肺結核(低感染性)
前述の塗抹検査では結核菌が見つからなかったものの、
PCR検査(3~5日で結果判明)や、培養検査(最終結果は8週間後)から結核菌が判明し、胸のレントゲン上も影がある状態。
菌検査で結核菌が見つからなかった場合でも、レントゲンやCT上の病変から医師が結核を強く疑う場合は、結核と診断されることもあります。
この場合は通院で治療することができますが、培養検査で3回連続陰性が確認されるまでは、就業制限がかかり、多くの人と接する業務については制限がかかります。
高感染性の肺結核の場合は強制入院が必要なのに比べると、こちらの就業制限は拘束力は弱く、就業制限通知が口頭および文書で本人に伝えられ、対応については、本人や職場に任せられることが多いです。
一般的な会社員であれば、実質就労に影響が出ることはあまりありません。
治療についてはこちらも公費が使えますが、入院治療とは異なり自己負担が5%かかります。
肺外結核
頸部リンパ節や、骨、胸膜など肺以外の部位で結核菌が増殖してしまった状態です。
それぞれ頸部リンパ節結核、カリエス、結核性胸膜炎などの診断名がつきます。
この場合は、リンパ節の腫れている部分を穿刺するなどして、菌検査を実施し結核菌判明後に診断が付く場合と、医師が病変や病状から結核を疑い診断する場合の2パターンがあります。
肺ではないところに結核菌がいるので、咳などから空気中に菌が拡散されることはありません。
痰の検査を実施し、塗抹検査でも培養検査でも陰性であれば、接触した人の感染リスクはとても低いため、保健所が実施する接触者健診は行われないことが多いです。
こちらの場合も基本的には通院での治療となり、自己負担は5%となっています。
結核接触者健診とは
前置きが長くなりましたが、いよいよ接触者健診について。
前述のように結核の診断がつくと、診断をつけた医師はただちに保健所へ発生届を提出することが感染症法で義務付けられており、病院を管轄する保健所が発生届を受理すると、保健所の担当職員が本人や家族に様々な聞き取りを開始します。
感染性がある期間とは
結核は比較的ゆっくりと進行する疾患なので、診断がつく前から感染性があることがほとんどです。
患者の担当職員が発症経過等を把握したあとは、保健所内でその患者がいつごろから感染力があったかを推定します。
そのようにして推定された感染性があった期間内で、より長く濃厚に接触していた接触者から順に保健所が健診を実施することになるのです。
ちなみに感染性の始期は、診断の3か月前程度に設定されることが多いため、患者と半年前までは頻繁に接触していたような場合は、基本的には保健所が実施する接触者健診の対象からは外れます。
なお、感染性消失の確認は痰などの菌検査によって行います。
健診の進め方
患者との接触時間や濃度を考慮し、健診の必要性を
最優先、優先、低優先に振り分けます。
そして、最優先の接触者から順に健診を実施し、その結果次第で優先や低優先の接触者について、健診を実施するか検討します。
最優先接触者から感染の可能性がある人が出なかった場合、優先、低優先の対象者は保健所が健診を実施することは、ほぼありません。
ですので、接触者の対象としてリストに上がっていたとしても、優先・低優先の対象者には保健所から連絡が入らなことも多くあります。
なお、患者の感染力によって最優先の対象者数はかなり変動します。
通院治療をしている低感染性の患者の場合は、同居の家族のみが最優先となることが多く、排外結核で痰から菌が出ない場合は同居家族にも健診は実施されないことがほとんどです。
健診の内容
健診方法は大きく分けて2つあり、
- IGRA検査と呼ばれる血液検査
- 胸のレントゲン検査
これらのいずれか、またはこれらを組み合わせて実施します。
IGRA検査(血液検査)
IGRA検査にはTスポット検査やQFT検査などがあり
現在結核を発病してしまっているかを判定するレントゲン検査とは異なり、結核に感染しているかをみるものです。
もし、IGRA検査で陽性だったけれど胸のレントゲン検査では異常がない場合、
「結核に感染はしているが、発病していない状態」ということになります。
この場合は本人にも周囲にも特に影響はないため、慌てる必要はありません。
このような状態の方のうち、約1割がその後結核を発病すると言われており、9割の方はそのまま生涯にわたって発病しません。
ただし、発病のリスクを半減できる治療があるので、その治療を勧められることが多いです。
治療をする場合「潜在性結核感染症(LTBI)」という診断名が付き、自己負担5%で治療ができますし、就業制限は一切かかりません。
潜在性結核感染症については、また別記事でご紹介できればと思います。
ちなみにIGRA検査は、感染の有無はわかりますが、それが最近の感染かどうかはわかりません。
高齢者は、結核が国民病だった時代を生きているため、当時の感染をひろってしまい、IGRA検査の結果が陽性となる確率が高くなります。
結核は感染から2年以上経過している場合、発病のリスクは大きく下がることや、感染した元の患者さんが誰かわからない状態では、発病を予防する治療も難しいことから、高齢者にはIGRA検査を実施しない保健所も多くあります。
その場合、発病のリスクが高い2年間、レントゲン検査を定期的に実施することになります。
また、高齢でなくても過去に結核の患者と接触したことがあるという方や、自身が結核にかかったことがある方も同様にIGRA検査の対象外となることが多いです。
胸部エックス線検査
胸のレントゲンのことです。
こちらは、今の肺の状態がわかるので、発病していないかを確認することができます。
前述のとおり、IGRA検査の対象外となる方もいるので、その場合は患者の感染性の期間内で最後に接触した日から2年間、約半年ごとに胸部エックス線を実施することになります。
費用負担について
保健所の判断で、接触者健診の対象となった場合、検査費用はかかりません!
保健所に行くか、保健所と提携している医療機関で接触者健診を受けることができます。ただし、交通費等は一切出ないので、検査のみ無料と考えてください。
また、接触者健診を実施する対象外となった方については、検査料の助成等はありません。
保健所から連絡がないけど健診をやりたい!
知り合いが結核だったことを知れば、不安になりますよね。
しかし、慌てないでください。結核は潜伏期間が長く、感染後すぐに発病する疾患ではありませんし、急激に病状が進むことも滅多にありません。
そこで、まず、確認したいのが
- 現在、咳や痰、倦怠感が2週間以上続いているか
- ここ数ヶ月で不自然な体重減少があったか
- 最近、胸のレントゲンを撮っているか
以上3点です。
既に上二つのような何らかの症状があるのであれば、もう健診ではなく受診(医療)の対象になるので、呼吸器内科がある病院やクリニックに事前連絡をした上で早めに受診してください。
保健所の健診の対象となっていても、担当者から症状の有無については聞かれ、症状があると答えた場合は、健診ではなく受診を勧められることになります。
胸のレントゲンについては、可能な限り年に1回は撮影する機会をもつことをお勧めします。
お勤めの方であれば職場健診、国民保険の40歳以上なら特定検診、その他各自治体ががん検診などは行っているので(肺がん検診をすれば胸のレントゲンが撮れます)、症状がなくて心配な場合は胸のレントゲンだけでも撮っておくと、少なくとも自分が人に感染させてしまう状態ではないことが分かるので安心できます。
ちなみにご紹介したIGRA検査ですが、呼吸器内科がある医療機関なら実施可能な所も多くありますが、診断料を含めると1万円程度かかる高額なものです。
「それでも良いから実施したい」という場合は、念のため自分が対象にならないか、自分が住んでいる場所を管轄する保健所に確認した上で、医療機関に相談してみてください。
おわりに
結核は平成28年の記録で年間17,625人が新規に患者さんとして登録されている、まだまだ珍しくない疾患です。
日本全体として、結核の新規罹患者数は減少傾向にあります。しかし、結核は感染から発病までに長い年月をかけることがあるため、昔どこかで結核に感染していたご高齢の方が、抵抗力が落ちた今、発病するケースや日本よりも結核が蔓延している国から日本に移住された方が日本で発病するケースが割合として多くなっている状況です。
しかし、感染症は誰がなってもおかしくないし、患者自身が一番辛く、しんどい思いをされます。もしも、身近な方が結核になってしまったら、優しくサポートしつつ、接触者健診の対象となってしまった場合は、しっかりと検査を受けましょう。